先日、名古屋に出張してきました。
そこで体験した、お金を払えなくて損をした話をします。
名古屋には「金山駅」という、かなり大きなターミナル駅があります。
ホテルは別の駅の近くだったんですが、金山駅周辺にはごはん屋さんが多いので、電車に乗って夕食に出掛けました。
で、食べ終わってホテルに戻ろうとしたとき、駅前で人形を発見したんです。
いや、
それは人形ではありませんでした。人間です。
直立不動の人間です。
全く動きません。
その人は、鳥のクチバシのようなマスクをしていました。
昔のヨーロッパで、ペストの治療にあたる医師が装着していたという「ペストマスク」です。
そして、前に置かれたカゴにはこのような表記が。
「100円以上で踊ります」
なるほど、路上ダンサーというわけですね。
正確な文面は覚えていませんが、金額によってダンスが変わる、といったことも書かれていました。
肌寒い2月の夜に駅前でただ一人、じっと投げ銭を待ち続ける鳥人間。
ファンタジーのようですが本当です。
なんだか面白そうです。
しかし不運なことに、そのとき私は、100円玉も500円玉も全く持っていませんでした。
かと言って、見知らぬダンサーにいきなり千円札を投げ入れる勇気はありません。
そうや、ちょうどコンビニで買いたい物があったんやった。
それでお札をくずしてから、戻ってきて100円を入れてみよう。
私がそう思ったのは、出張中という非日常感がそうさせたのかもしれません。
5分後
近くにあったファミリーマートから出てきた私は、金山駅に向かって歩みを進めます。
あのダンサーはまだ待ってるんやろか、
こんな寒い中、
こんな寒い、
こんな寒い外気をもしのぐ勢いで、次の瞬間私のテンションは冷え込みました。
ダンサーさん、お金も入れてないのに踊ってる。
しかも、そのダンスを誰一人として見ていないので、先客が来たというわけでもなさそうです。
じゃあ、なに無料で踊っとんねん!
100円入れる気満々やった俺の気持ちはどないなんねん!
一瞬思ったんですよ。それでも100円入れようかと。
ですけど、既に¥0で踊ってくれてるのにお金払ったら、それだと私がおかしいじゃないですか。
マクドナルドで「100円出しますからもっとスマイル下さい」って言うようなものでしょ?
よって、お金を払うチャンスを失った私はダンスを見るモチベーションも下がり、そのままスルーして金山駅の改札を通ったんです。
5分後
しかし、電車の中で思いました。
ダンサーさんにしてみれば、いつ入るかわからない投げ銭を、お地蔵さんのように待ち続けているわけです。
じっとしているだけでは、なかなかツラいものがあるでしょう。
よく考えてみると、世の中には似たような物があるじゃないですか。
家電量販店にあるパソコンは、誰も触っていないとスクリーンセーバーが映っています。
ゲームセンターにある格闘ゲームは、お客さんがいない間、ずっとデモプレイが流れています。
カラオケで曲を入れずに放置していると、DAMチャンネルが始まります。1DAM以外の機種のことはわかりません。
だからあの¥0ダンスも、スクリーンセーバーやデモプレイやDAMチャンネルのような、いわゆる「アイドリング状態」だったのではないでしょうか?
思い起こしてみれば、ダンスと言っても、それほど激しい動きではありませんでした。
もし、あのときお金を入れたら、それこそ本気モードのブレイクダンスが発動していたのではないか?
ああ、私はもったいないことをしてしまった。
「なに無料で踊っとんねん!」と、安直に突っ込んでしまった自分を恥じたいです。
そこで
足元にあったボードで、ダンサーさんの名前は確認しました。
twitterで見つけました。
せめてもの罪滅ぼしとして、ここで紹介させて頂きます。
ペストマスクダンサーのオズさんです。
名古屋近辺にお住まいの方は、金山駅に足を運んでみて下さい。
そして幸いなことに、私は今後も名古屋出張の予定があります。
もし、次にオズさんを見かけたら、ダンス中だろうが食事中だろうがオセロ中だろうが、オズさんがバグるのも覚悟の上で100円を入れたいと思います。
そうや、あらかじめ小銭を用意しとかんと。