コバンザメ礼法

道順、気配り、邪魔にならないカバンの持ち方。
テクニックは習得できても心は一向に慣れない通勤ラッシュに、今日も巻き込まれます。

平日の朝、東京の地下鉄は、車内もラッシュならば駅構内も混雑しています。
不機嫌な人にぶつかりませんように、たとえぶつかってもその人が「今朝割った卵に黄身が二個入ってたけど一個一個がグリーンピースぐらいの大きさしかなくてむしろ量的に損した」程度の不機嫌でありますように、と願いながらようやく改札を出ると、その日は様子が違いました。

駅員さんが何かを配っています。
「整列乗車にご協力ありがとうございまーす」
と呼びかけながら、何かを配っています。

行き交う会社員がみんな受け取っているその物体を、私も受け取りました。

東京メトロのオリジナルボールペンです。

各路線のカラーに見立てた模様が入っている、シンプルながらに独自色を備えたデザインです。
これだけの乗客がいてもダイヤを守った運行ができるのは、確かに整列乗車のルールが浸透していて、みんながそれを守っているからでしょう。
それに対する感謝の品ということで、有難く頂戴しました。

しかし、その光景を見て思ったんですよ。
受け取った人は、みんな一様にボールペンを確認しています。
普段、駅構内で何かが配布されていることなどありませんから、突然細長い物を受け取ったら「何だろう?新作のチュロスかな?」と気になって見入ってしまうのは当然でしょう。

そのせいで、大混雑の中だというのに、人々の視線が下を向いちゃってるんですね。
これは危険ではないでしょうか?

日常的に電車に乗る方なら、「歩きスマホはお止めください」というアナウンスをよく耳にすることでしょう。
改札もある、階段もある、なにげに障害物だらけの駅構内においては、前を見ながら歩かないと危ないのは誰でもわかります。
にもかかわらず、ボールペンの差し入れにより、地下鉄は自らの手で前方不注意を招く結果となってしまっています!
感謝の気持ちはたいへん嬉しいのですが、配布方法には改善の余地があるのではないでしょうか?

よし、今日はこれを考えましょう。

歩きペン見を防ぎつつボールペンを配る方法を考えよう

そんな真剣に見つめる人いないだろ

まず思いつくのは「ペンをサイリウムのように輝かせる」ですね。

単純な話で、じっくり見ることができないペンにすればいいんです。
つまり、ボールペンの軸に発行体を仕込んで、太陽のように強烈な光を発するようにすれば、受け取った人はデザインの確認どころではなく、「うおっまぶしっ!」と目を覆いつつ即座にカバンにしまう以外ないでしょう。

良いアイデアだと最初は思いましたが、この方法には問題があります。
これを配っている駅員さんは、単体でさえまぶしいボールペンを大量に持っているわけですから、両手から仏様のような金色の光を放たざるをえません。
昨日まで新聞の四コマ漫画に作画崩壊がないかどうかを確認することだけが唯一の生きがいだった平凡な駅員さんが、突然ご本尊のように祀り上げられる危険性をはらんでいます。
別の案を考えましょう。

それ平凡な駅員じゃねぇよ

もっと根本的なところに立ち返ってみましょう。
何かをもらったら、リアクションをとるのは人として自然なことです。
ならば、乗客に「ボールペンをもらったことすら気付かせないようにする」のはどうでしょうか?

それを可能にするプロセスは以下の通りです。

1.ボールペンに粘着テープを巻いておく

実際にやってみました。こんな感じになります。
なお、この粘着テープはきれいに剥がせるタイプなので、こうしてボールペンに貼っても後で復元できます。

2.駅員さんは、駅の目立たないところに身を隠す

自動販売機の後ろや階段の裏など、人の目が届きにくいところに、息をひそめてスタンバイします。
そして、通勤ラッシュの時間帯になったら、

3.駅員さんは物陰からボールペンを投げる!

そのボールペンは雑踏に向かって飛んでいき、

乗客のカバンに貼り付く!

どうでしょうか。
これなら乗客は、何かを渡されたことに全く気付きません。
ホームの上でも電車の中でも、なかなか連鎖が起きないぷよぷよのごとく詰め込まれ、人の密度に耐えつつ打ち合わせの議題やらメールの返信やら職場で育てているサボテンと会話するネタやらに思い悩んでいるサラリーマンにとっては、カバンなど意識の外でしょう。

駅員が不審者そのものじゃねぇか

しかし、すぐに気付くはずです。
電車内で、網棚にカバンを乗せるチャンスがあったらその時に。
そうでなくても、職場に着いてもう十分疲れたよ、でもこれから仕事だよ、とげんなりしながら机にカバンを置いたその時に。
「あれ?なんだか小さな贈り物がくっついている…?」
決して高価なものではないかもしれませんが、いつもお世話になっている地下鉄からの小さなサプライズに、いつもと違うほっこりした気持ちにさせられることでしょう。

むしろ気味が悪くて使えねえよ

さっそくサボテンに報告ですね。