ネジを突っ込む執刀医

一人暮らしを始めて4年半、二人暮らしになって4年半、また一人暮らしに戻って1年半。
その10年以上にわたって、私のワイシャツのしわを伸ばし続けてくれたアイロンが、ついに壊れました。

これがそのアイロンです。
写真を撮るためにある程度きれいにしましたが、長年働き続けたベテランの風格を感じて頂けるでしょうか。
おそらく私のワイシャツの事なら、柄やサイズや素材など、私以上に知り尽くしているはずです。

さて、「アイロンが壊れた」と聞くと、皆さんどんな状況を想像されるでしょうか。
温度が上がらなくなったのか、スチームが出なくなったのか、それとも電源すら入らなくなったのか。

いやいや、そんなありふれた壊れ方ではありません。

 

尻が剥がれました。

温度やスチームなどの機能的な不具合ではなく、大胆にもビジュアルで異常を示してくれました。ベテランの潔さを感じます。
10年間、文句一つ言わずに働いてくれていると思ってたら、臀部が崩壊するほどのストレスを抱えていたんですね。

この通り、内臓もむき出しになってしまっています。
尻を剥がして撮った内臓の写真をWebに公開するなど、淫行条例も真っ青の猟奇極まる行為ですが、今回はアイロンさんの方からさらけ出してきたわけなので、逮捕状はアイロンさんまでお願いします。

条例とか関係なく気持ち悪いわ

しかしこのアイロン、どうすればいいんでしょうか?

ここは基本に立ち返りましょう。
家電には必ず「取扱説明書」があります。
それを読めば、尻が剥がれた場合の対処法も、きっと網羅されているに違いありません。

本棚の説明書コーナーを漁った結果、ちゃんとありました。
10年前のアイロンなのに、こういうものをしっかりと保管している几帳面さに、我が事ながら感心します。

そしてなんと、「故障かな?と思われたときは」というページがあります。
私は今まさに、尻が剥がれたこのアイロンは故障かな?と思っている人間です。
このページを読めということですね。

故障だろ

当該ページは、大きめのフォントでわかりやすく書かれています。
えーっと、尻、尻…

  • 熱くならない
  • スチームが出ない
  • スチームが少ない
  • 布地が焦げる
  • 布地が変色する

おい、症状に「尻が剥がれた」が無い!
え、じゃあこれ、故障ってこと?

そうだよ

でも聞いて下さいよ、アイロンとしてはちゃんと動くんです。
ダイヤルを回せば熱くなるし、スチームも出るし、アイロンがけも尻を片手で押さえながらならできるんです。
おじいちゃんの介護をしながら無理やり働かせているようで人道的にはどうかと思いますが、それでしわはしっかり伸ばせるんです。無論、焦げたり変色したりもしません。

アイロンたる役割は不足なく発揮してくれていますが、一方でルックスは大変気の毒な状態です。
何とかケアしてあげたいのに、なぜ尻が剥がれた場合の対処法が書かれてないんだろう…

…はっ!
もしかしてこれ、買う前から剥がれていたのでは?

実はこのアイロンは第一次家電大戦において最前線で戦った勇士であり、敵方の扇風機大佐を死闘の末に打ち負かすも、大佐が死に際に繰り出した回転羽カッター攻撃を受けて尻をスパッと斬り落とされ、命からがら生還して大手術の末に元通りの姿を取り戻したものの、医者から「身体を酷使すると古傷が開くぞ」と忠告されており、しかし誇り高き戦士である彼はそのことを語ろうともせず、何の因果かやって来た私の家において出勤3分前に秒速でアイロンがけするという雑な使い方に耐え抜いた結果、ついに古傷がその時を迎えてしまったのではないでしょうか?

なるほどそういうことなら、尻が剥がれたケースが説明書に書かれていないのも、彼のプライドに配慮した結果と言えましょう。

何を巡る戦争なんだよ

次の日、新しいアイロンを買いました。
アイリスオーヤマさん、こんにちは。