こんにちは、フクイチです。
夜は居酒屋、昼は定食屋。今日もそんなお店で昼ご飯です。
ここの名物は焼き魚定食。
店に入るなり、炭火の熱気とお魚の香りが出迎えてくれます。
前払いで注文したのち、着席。
普段なら無条件でスマホに手をやる時間ですが、その日は湯呑みが目に留まりました。
「長寿の心得 人生は六十から」
なにやら格言が書かれていそうです。
はたして、「長寿の心得」とはどんなものなんでしょうか。
私の予想としては、
- 好きなことをしよう
- よく笑おう
- 体を動かそう
- 野菜を食べよう
- 酒も適度に飲もう
- 旅に出たりして新しい刺激を得よう
- 花崗岩は効かないぞ
こんなところだと思います。
ひとしきり考えたうえで、湯呑みをちょっとだけ回してみると、
「七十歳でお迎えの来たときは」
飛躍ッッ！！
想定していた現実的なアドバイスが全て吹き飛びました。もう「お迎え」が来ちゃってます。
どんなに心の広い生命保険にも入れなさそうな状況だというのに、そこからどうするんでしょうか？
東大合格を目指す受験生が買った参考書に、「二次試験必勝法！」ではなく「落ちた時のショックに備えて、EDMを聴きながらノリノリで合格発表に行こう！」とか書いてあったら、きっと同じ心境になるでしょう。
あまりに衝撃的なので、続きを読む前に「お迎え」とはどんな存在か、少しだけイメージしておきましょう。
「お迎え」ってなんだ？
「あの世からのお迎え」と聞いて、私がとっさに連想したのは、
名作アニメ「フランダースの犬」です。
その連想速度たるや、「ひつまぶし」から「暇つぶし」を思い浮かべるスピードにも迫るほどでした。
ラストシーンで、ルーベンスの絵を前にして息絶えたネロとパトラッシュ。彼らが天使にかかえられて天国に召されるシーンはたいへん有名です。
よって、ここからは「あの世からのお迎え」として、このような天使の姿をイメージすることにしましょう。
優しそうな微笑みをたたえているからといって、油断してはなりません。
この天使は、少年一人と犬一匹をかかえて天国まで送り届けるほどのパワーを有しているのです。スペースシャトルも舌を巻く輸送能力です。スペースシャトルの舌ってどこにあるんでしょうか。
では、「お迎え」のイメージが固まったところで、長寿の秘訣に戻りましょう。
ベルギーの地からやってきたお迎えを目の前にして、七十才がとるべき行動とは？
ん？
え？
はい？
えっと、
待って。一旦テキストに起こすのでちょっと待ってて下さい。
七十才でお迎えの来た時は 只今留守と言へ
八十才でお迎えの来た時は まだまだ早いと言へ
九十才でお迎えの来た時は そう急がずともよいと言へ
百才でお迎えの来た時は 頃を見てこちらからボツボツ行くと言へ
まさかの交渉術でした。
お迎えへの対処と聞いて、塩をまいたり火をおこしたり魔法陣を描いたりするような呪術を思い浮かべた私が愚かでした。そんな軽いトークで撃退できるんですか。
こういうことでしょ？
特に最初なんて「只今留守と言へ」ですからね。
「おう、誰かおるかー？」
「誰もおらんで―。」
「そっか邪魔したなー。っておるやないか！」
これはもう吉本新喜劇の世界です。客席から安定の笑い声が響きます。
どうやら、フランダースの犬におけるお迎えを「絶対に客を逃がさない百戦錬磨の保険販売員」とするならば、日本のお迎えは「明らかにやる気のないガールズバーのキャッチ」のようです。一言二言で容易に断れる弱さです。
しかしこれ、お迎えさん側も薄々わかってるでしょ？
「あの世いかがですか！」と言われて、ホイホイついて行く人などいない、って気づいてるでしょ？
だからこそ、やすやすと引き下がってくれるのではないでしょうか。
私が思うに、お迎えさんは自ら進んでお迎えに行っているのではなく、無駄だとわかってて渋々やってるんです。
それこそ、夜の繁華街で所在無げに立ち尽くすキャッチのようです。
なぜそんなことをするのか？これしか考えられません。
上司命令です。
おそらく、あの世には「人をあの世に引き込む」が経営理念の会社があるんです。
で、平均寿命の上昇に伴い、あの世に向かう人が減っている。
「このままでは、あの世の繁栄は遠のくばかりです！なんとしてでも人を連れてくるように！」と上層部にハッパをかけられ、「現場のこと全然わかってないよね…」と愚痴をこぼす。
そして、営業スマイルで「あの世いかがですか！」と健気に繰り返し、もちろん成果は挙がらず、空虚な報告書を提出してやり過ごす。
…気の毒です。
そんな会社辞めればいいのに辞められない事情でもあるのか、とにかくお迎えさんに同情せざるを得ません。
ここまで来たら考えましょう。
天使のモチベーションの低さから、会社組織「お迎えカンパニー」に属することは推測できました。
では、お迎え天使は何人在籍しているんでしょうか？
お迎えカンパニー事業計画
まず、お迎えに向かうべき対象者は何人いるのか、そこから調べましょう。
「長寿の秘訣」によると、70歳、80歳、90歳、100歳のときにお迎えが来るようです。株式会社お迎えカンパニーは、それら一人一人にお迎え訪問しなければなりません。
では、日本には、それぞれの歳の人は何人いるんでしょうか？
総務省統計局のサイトを参照し、2018年の日本における各年齢の人口を調べました。
- 70歳：211万5000人
- 80歳：115万5000人
- 90歳：47万人
- 100歳以上：6万9000人
なんと100歳越えが約7万人！これはドミニカ共和国の人口とほぼ同じです。
年齢三桁の方々が集まればドミニカになる国、日本。やはり長寿の国です。
※100歳ぴったりの人口はデータが見つからなかったので、ここからは誤差を承知で6万9000人を「100歳の人口」とします。
ということは、お迎え対象者は合計380万9000人います。
一年365日に割り振ると、一日平均1万436人を訪問しなければならない計算です。
これを達成するために、お迎えカンパニーが確保すべきお迎え人員はいかほどか。
それは「一人のお迎え天使は、一日で何人を訪問できるか」によります。
まず、お迎え天使の移動速度ですが、これはあの世とこの世を往復できるぐらいなので、どこへでも瞬間移動できると仮定しましょう。
こんな感じです。
仕事とはいえ、日本列島を縦横無尽に飛び回ることができるお迎えさん。ちょっとうらやましいです。
この速度で移動できるなら、出張のついでに温泉に入る、エステに行く、遊園地で遊び倒す、など余裕でしょう。やるかどうかは別として。
となると、1万人のお迎え対象者がいようが、天使が数人もいれば1日でカバーできそうですが、ちょっと待った。
ここで、お迎えされる側の立場で想像してみましょう。
70歳のある日、噂に聞いていた「あの世からのお迎え」と名乗る天使がやって来る。
当然、まだあの世に逝くつもりはない。断ってはい、終わり…
と、なるでしょうか？
目の前に「あの世を知っている天使」がいるんですよ？しかも十年に一度しか現れないんですよ？
ついて行く気こそ無いけれど、聞きたいことは山ほど浮かびます。
あの世はどんな世界なのか、亡くなったおじいちゃんおばあちゃんは居るのか、去年死んだあの有名人は今どうしているのか、あの世にUber Eatsは届くのか…
興味は尽きることなく、お迎え天使を質問攻めにしそうです。
ということは、ゲストを質問攻めにすることでおなじみのトーク番組「徹子の部屋」一回分ぐらいは話し込むんじゃないでしょうか？
そこで私は3月9日～3月13日まで一週間分の徹子の部屋を録画しトーク部分の時間をストップウォッチで計測しながら全部見て30分枠のうち平均で19分20秒がトークだという結果を得ました。
上の文に「、」を一切入れていないのは、情報を一気にたたみかけて、やっていることの異常性を悟られないようにする作戦です。
しかし、見ての通り作戦は大失敗なので、ちゃんと説明します。
3月9日～3月13日の徹子の部屋のゲストと、トーク時間は以下の通りです。
| 放送日 | ゲスト | トーク時間 |
| 3月9日 | ゆりありく | 18分58秒 |
| 3月10日 | 倉本聰 | 17分01秒 |
| 3月11日 | 八代亜紀 | 18分19秒 |
| 3月12日 | 桐谷健太 | 19分16秒 |
| 3月13日 | 中村倫也 | 23分07秒 |
これらを平均すると19分20秒です。
ちゃんと見て気づいたんですが、徹子の部屋には「過去の放送回」や「ゆかりのある人からのメッセージ」など、VTRがけっこうな頻度で挿入されます。
上記のトーク時間は、そのVTRやCMなども除いて、徹子さんとゲストが純粋にトークした時間です。
回によって、トーク部分の長さにけっこうなバラツキがあることがわかります。中村倫也長いな。
あと、ゆりありく（猿まわしの人）がコントを披露してたんですが、要所要所で徹子さん一人の明朗な笑い声が響いてて、どんな心境だったのかちょっと気になりました。最近話題の「無観客ライブ」ならぬ「観客徹子オンリーライブ」になってました。
さて、徹子の部屋レポートはこれぐらいにして、本題に戻りましょう。
高齢者の方と、あの世トークでひとしきり盛り上がるお迎え天使。一人につき19分20秒を費やします。
労働基準法に従い、1日の労働が8時間だとすると、一人のお迎え天使が1日に担当できるのは、8時間÷19分20秒で24人です。
ということは、全体ノルマの1万436人をカバーするのに必要なお迎え天使は、1万436÷24で435人！
…とはなりません。
なぜって、お迎え天使にも休日が必要だからです。
週休二日で働くとして、7人のお迎え天使がこのようにシフトを組めば、毎日5人ずつのお迎え天使を確保できます。
よって、稼働している人数の5分の7が在籍している必要があるわけです。
ですから、435人の5分の7で…
609人！
はい、やっとたどり着きました。お迎えカンパニーに在籍するお迎え天使は609人です。そこそこの大企業です。
しかしそこに居るのは、ワンマン経営者のもと、今日も無意味な労働にいそしむ天使たち。
一刻も早く、組織の異常性に気づいてほしいものです。
仮定や推測の末に得られた結論ですが、解釈の一つだと思ってもらえれば幸いです。あの世のことですし。
「お客さん、お待ち！」
…あ。
そうだ、私はお昼ご飯を食べにきたんだった。
湯呑みを眺め、フランダースの犬を思い出し、高齢者の人口を調べ、徹子の部屋を計測しているうちに、銀鮭塩焼き定食がすっかり出来上がっていました。
私のもとにお迎え天使がやって来たら何を聞こう、と考えつつ、おいしく頂きましょう。
最後までお読み頂き、ありがとうございました！
